不用品 回収についての記述
その人はすでに同じビルのフラットを数室保有している金持ちだ」それは大いにあり得る話だと私は思った。
二○○一年のニューョーク同時多発テロ事件以降、テロ勢力との戦いを宣言したブッシュ大統領が、二○○三年にイラクを攻め、フセイン政権を崩壊させたことは記憶に新しい。
一時は、アラブ系資産の凍結を恐れ、アラブの富裕層が資金をアメリカから他の国々に移したと、日本やイギリスの新聞でも報道された。
アメリカで新たにテロが起きることで、ドル資産の価値が下落することを恐れた人々もいる。
そうした資金の一部が、イギリスの不動産価格を押し上げていることは想像に難くない。
「だが、ミスターW、僕は金儲けばかり考えているわけではないよ」「まだほかにも、そんな高いフラットを買った理由があるのかい?」「確かに、今、ロンドンはややバブル気味で、ロンドンの上質の不動産は値上がりするだろう。でも、一番大事なのは家族だよ。僕たちの仕事は朝が早い。また夜は夜で、ニューョークの相場を見ていて、帰りが遅くなることがある。遠くに住んでいると、妻や子供と一緒にいる時間が少なくなる。それに通勤に時間がかかれば、疲れが倍増して、機嫌のいい顔で家族に接することができない。そこが問題だ」やや意外なことを彼は語り始めた。
「自分の仕事のディーリングで稼いで、会社から多額の給料とボーナスを貰い、なおかつ、家族との時間を大事にするには、やはり会社の近く、それも市街にも近い便利な場所に住むべきだと思ったのさ。それに週末には、妻とレストランに食事に行く。あるいは、オペラやミュージカルを鑑賞に行く。それやこれやで、遠い郊外に住んでいたら、大変だからね」「じゃあ、ずっと今のフラットに住むつもりかい?」そう私が聞くと、彼は手を振って笑った。
「それはない。フラットが六十万ポンド(一億一千四百万円)にでも値上がりしたら、売却して利益を手にする。その後は、しばらく賃貸の家に住んで、不動産の相場を眺めて暮らすさ。いずれにせよ、うんと金を貯めたら、さっさと静かな郊外の一戸建てを買い、自分だけのSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)を立ち上げ、マイペースで仕事をするさ」ベストの仕事をするために会社の近くに住居を構えるが、それは投資のためでもあり、また家族との時間を大切にするためでもある、と彼は言う。
そして、金が出来れば自分の会社を作る計画を、何の気負いもなく彼は口にした。
ちなみに彼はまだ三十代後半である。
若いけれど仕事と生活をしっかり見すえ、柔軟な考え方をする彼に、私は大いに感心した。
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